これまでマンガやアニメなどのIP、タレント、SNSクリエイターとのタイアップなど、多様な手法で効果的なプロモーションを展開してきた、国内最大級の美容サロン検索・予約サービス「ホットペッパービューティー」。直近の若年層プロモーションでは、人気クリエイター『P丸様。』とのミュージックビデオ制作を実施。この施策は単なる認知獲得に留まらず、ファンとのエンゲージメントを深めることに成功しました。P丸様。と『ホットペッパービューティー』がコラボ!「わたし最強(さいつよ)あっぷでーと♡」MVが2025年7月7日より公開。今回は、施策のプロジェクトマネジメントを担当された株式会社リクルートの磯恵美氏に、ファンを巻き込むインタラクティブなタイアップを実施された背景と、そこで得られた教訓を伺いました。なぜ、SNSクリエイターとのタイアップなのか。その挑戦を後押しした理由渡部:今回のタイアップにおいて、磯さんが担当していた業務とミッションについて教えてください。磯:私は、ホットペッパービューティーのタイアップ施策のプロジェクトマネジメント業務を担っていました。ブランドプロモーションの組織は、ターゲットや施策ごとに担当が分かれています。私はその中で「若年層の女性」を担当しており、美容室を予約してくださる若年層の女性のお客様を増やすことがミッションです。渡部:これまでも磯さんのチームでは、さまざまなIPやクリエイターとタイアップされてきたと思います。それが今回、SNSクリエイターであるP丸様。との施策を実施したのはなぜですか?磯:ホットペッパービューティーでは、若年層女性向けのタイアップ施策を2018年頃から開始しています。実は「SNSクリエイター」というジャンルは、施策を始めた初期の頃に一度実施したことがありました。その時の施策は、SNSで活躍されている漫画クリエイターの方々とタイアップして、描き下ろしの漫画を制作いただいたのですが、KPIを達成し、成功事例となりました。しかしご存知の通り、若年層のトレンドは変化が非常に目まぐるしいです。約7年が経過した現在も、SNSクリエイターとの施策が有効なのかを改めて検証するために、今回の施策を実施することにしました。渡部:過去の成功事例をアップデートするという狙いがあったのですね。磯:その中で、P丸様。を起用させていただいた理由は大きく3つあります。一つ目は本施策のターゲットである若年層女性から絶大な人気を誇るクリエイターであること。これは大前提として非常に重要でした。二つ目は、P丸様。の作品の世界観と、ホットペッパービューティーが伝えたいメッセージの親和性が高かったことです。P丸様。の作品には、女の子が主役の恋愛や日常を描いたコミックモーション(短編漫画動画)が多くあります。「可愛くなりたい」「髪型を変えて自分に自信をつけたい」といった、ユーザーが美容室を利用する動機をP丸様。の普段の作品の世界観を崩すことなく、自然に描くことができると考えました。渡部:確かに、P丸様。の描くキャラクターたちの心情と、美容へのモチベーションはすごくマッチしますね。磯:そして三つ目が、「音楽」という新たなアプローチの可能性を検証できる点です。P丸様。はコミックモーションだけでなく、歌い手としてもご活躍されています。過去に実施したSNSクリエイター施策は描き下ろしの漫画のみでしたが、今回はそれに加えて音楽というジャンルの有用性も検証できる。この点が、P丸様。にお願いしたいと強く思った決め手になりました。渡部:関係者でオリエンテーションを実施した時、P丸様。も自身の作品とホットペッパービューティーの親和性を感じてくているとおっしゃっていました。まさに両思いでのスタートだったのですね。大原則はIP・クリエイターの世界観を最大限尊重すること渡部:今回のタイアップは、ホットペッパービューティーというブランドへの好意形成が大きな目的の1つだったと思います。その中で、施策を通じて届けたいメッセージをどのように設計したのですか?磯:大前提として、ホットペッパービューティーのタイアップ施策では、タイアップさせていただくIP・クリエイターの世界観を最も重視しています。そして、ファンの方々に「IP・クリエイターとホットペッパービューティーがタイアップしたことで、新しい素敵な作品が生まれた」と楽しんでいただきたいと考えています。ですから、こちらから一方的に伝えたいメッセージを押し付けるのではなく、IP・クリエイターが持つ世界観を最大限に尊重することを常に意識しています。その上で、「美容室に行って髪型を変えたい」と思っていただけるような仕掛けや要素を、作品の中に自然な形で盛り込んでいただくようにしています。渡部:まずはファンの方々に喜んでもらうことが第一ということですね。世界観を大事にしつつ皆さんのメッセージを届けるために、クリエイティブ制作で特に気をつけていたことはありますか?磯:自分の感覚や感性を信用しすぎないことでしょうか。私は施策のメインターゲット層からは外れていますし、ファン心理というものを100%は理解できていません。ですので、企画を考える際はMintoさんのディレクターやP丸様。に、「どんなコンテンツであればファンの方々が喜んでくれるか」を何度も相談させていただきました。ファンの方々の感性に寄り添うために、細かい部分まで丁寧にすり合わせながら制作を進められたことが、結果的に良いコンテンツ制作につながったのだと思います。渡部:具体的に、どのようなすり合わせがあったのでしょうか?磯:第一に意識したのは、MVに登場する女の子のキャラクターの服装や髪型です。例えば私には、今の若年層にとってどんな髪型やファッションがかわいいのか、判断がつきませんでした。髪型はもちろん、靴下や小物などの細かなところまで、クリエイティブ担当者と議論をしながら、「P丸様。のファンがどう感じるか」を意識して検討しました。ファンの方々は、P丸様。の世界観が好きで応援していらっしゃいます。ですから、最近の流行は捉えつつも、普段のP丸様。の作品からテイストが大きく変わらないようにすることを強く意識しました。渡部:髪型や服装は、私たちもリクルート様やP丸様。と何度も議論を重ねた部分でした。磯:それに加えて、我々としては「髪型を変えることをポジティブに描きたい」という想いがあったので、MVの中で髪型を変化させたいと考えていました。この点も、髪型を細かく指定せずP丸様。らしさを意識したことで、結果的にファンの方々からとても好意的なコメントをいただけたと感じています。【original anime MV】わたし最強(さいつよ)あっぷでーと♡インタラクティブを生むための仕掛けから得た成果と学び渡部:今回の施策は「ファンを巻き込む」ことにも重きを置いていました。P丸様。のように熱量の高いファンが多いクリエイターとのタイアップということで、工夫した点はありますか?磯:P丸様。はYouTube、Instagram、TikTok、Xなど複数のSNSアカウントをお持ちです。そして、それぞれのプラットフォームに沿った形で、情報発信やファンとのコミュニケーションをおこなってらっしゃると感じていました。ファンの方々もそれを理解し、各アカウントをしっかりチェックして活発にレスポンスされています。この関係性を最大限に活かすため、今回はクリエイティブの「公開の仕方」を工夫しました。具体的には、ファンの方々に向けて事前にティザーコンテンツを投稿したり、P丸様。にもクリエイティブ公開のタイミングで告知を発信していただいたりもしました。また、SNSの媒体ごとにクリエイティブの見せ方を変えることにもこだわりました。「Xでは動画よりも静止画の方がファンにとって馴染みがあるのではないか」などの議論を重ね、各プラットフォームに最適化した発信を心がけました。渡部:クリエイティブ投稿後のQ&A企画でも、P丸様。に対して「ホットペッパービューティーの使い方を教えて!」といったコメントが多数寄せられていましたね。ファンの方々がコンテンツを自分ごととして楽しんでくれているのが伝わってきて、仕掛けがうまく機能したのだなと感じました。磯:実は、企画を検討する中で、もう一つファンの方々とのインタラクティブなコミュニケーションが生まれるのではないか、と期待していたことがありました。それは、MVのサビでP丸様。のキャラクターがダンスをするというものです。昨今TikTokなどでダンスチャレンジが流行していますよね。このダンスもファンの方々が真似してチャレンジしてくれたら、UGC(ユーザー生成コンテンツ)として自然に拡散していくのではないかと期待していました。残念ながら、ダンスチャレンジは生まれませんでしたが(笑)。今後も、ファンの方の間で話題になるような企画や仕掛けにトライしていきたいと考えています。渡部:ダンスチャレンジは残念な結果に終わってしまいましたが、一方で想定以上の反響を呼んだ仕掛けはありましたか?磯:Mintoさんから提案された「インタビュー記事」は、ファンの方々にとてもポジティブな反響を頂けました。P丸様。は普段顔出しをされておらず、ファンの方々にとっては少し謎のベールに包まれた存在だと思います。だからこそ、ご自身のプライベートなことにも触れるインタビュー記事は、ファンの方々にとって非常に価値の高いコンテンツになるのではないかということで実施することにしました。✍🏻P丸様。の深掘りQ&A! 髪型へのこだわりやコラボ企画への思いを聞いてみた磯:インタビュー記事は特に広告配信などはせず、Xで投稿しただけ。それでもファンの方々には興味深く読んでいただいたようで、「こういう話が聞けて嬉しい」といった好意的なお声をたくさんいただきました。これは我々だけでは思いつかなかったアプローチで、チャレンジしてみて本当によかったと感じています。音楽だからこそ情緒的なメッセージを伝えられた渡部:今回の施策はこれまでの漫画中心のIP施策とは異なり、音楽、つまりMVを作るという点が大きなチャレンジだったと思います。実際に取り組んでみていかがでしたか?磯:正直、心配な側面もありました。音楽は漫画や動画に比べて、言葉で直接的に説明できる情報量が少ない。そのため、私たちが伝えたいメッセージが伝えきれない可能性もあるのではないかと考えていました。しかし、それは杞憂に終わりました。P丸様。と作曲家のナツノセ様によるキャッチーなメロディーと心に残る歌詞のおかげで、漫画や動画ではできない表現ができたと感じています。メロディーや詞に想いを乗せることで、より強い印象を聴き手に与えることができる。これは今回の施策で得られた、今までにない大きな発見でした。渡部:私も、ユーザーの反応を見ていて従来の施策との違いを感じました。漫画施策では、機能や特定のシーンに対するコメントが多く寄せられます。しかし今回の音楽施策では、「美容へのモチベーションが上がった」「自分のために可愛くなろうと思えた」など、情緒的な高まりに関するコメントが非常に多かったです。渡部:楽曲をゼロから作っていくプロセスで、ブランドとして伝えたいメッセージを歌詞に落とし込む際に、特に気をつけたことや大変だったことはありますか?磯:気をつけていた点で言うと「かわいい」という言葉の定義については、かなり深く議論させていただきました。渡部:「かわいい」の定義ですか。磯:ホットペッパービューティーは美容に関するサービスである以上、どうしても外見に言及することが多くなります。その点を強調しすぎて、「可愛くなることが絶対的な正義だ」など、外見至上主義を助長するような表現にならないように気を配りました。歌詞の中で「かわいい」という言葉を使うにしても、それがどのような文脈でどのような意味合いを持つのか、表現の仕方については慎重に言葉を選んでいきました。表面的な外見の変化を描くのではなく、髪型を変えることで内面がポジティブに変化し、自信がつくという内面の変化を感じて頂きたかったためです。渡部:皆さんが「かわいい」という表現の背景に込めたい想いを、クリエイティブに反映していったのですね。楽曲の制作以外に、SNSでバズらせたりUGCを高めたりするためにとりくんだことはありますか?磯:検証の一環として、今回は音楽プラットフォームでの広告配信も行いました。規模は大きくなかったものの良い成果を得られました。渡部:楽曲をさまざまなタッチポイントで聴けるようなアプローチにも取り組んだのですね。施策の受け取り手を深く理解して、寄り添うことを忘れない渡部:改めて、今回のP丸様。とのタイアップ施策で得られた具体的な成果や手応えについて教えてください。磯:今回のタイアップ施策によって、事前に設定していた「若年層女性のホットペッパービューティーに対する利用意向を上げる」という目標を達成することができました。定性的な成果も非常にポジティブで、髪型を変えて自信をつけていく主人公の姿に、好意や共感の声を多数いただくことができました。社内でも、「クリエイティブがかわいい!」「P丸様。とコラボするなんてすごい!」と非常に好評でした。渡部:今回の成功体験を経て、今後のホットペッパービューティーのマーケティング活動についてはどのような展開を考えていますか?磯:若年層女性向けのタイアップ施策では、まだまだチャレンジしたいジャンルがたくさんあります。若年層のトレンドは常に動いているので、これからも次々と魅力的なIP・クリエイターとのタイアップを検討していくことになると思います。その中から、ホットペッパービューティーの予約につながるようなジャンルやタイアップ先を常に見極め、検証していければなと。成功事例とナレッジを蓄積することで、タイアップ施策全体の「勝ち筋」をより確かなものにしていきたいと考えています。渡部:最後に、この記事を読んでいる企業のマーケティング担当者の方々へメッセージをお願いいたします。磯:アドバイスと言えるほど大それたものではないのですが、私が普段マーケティング業務をする上で大事にしていることをお話しさせていただければと思います。それは、「施策の受け取り手について、深く理解し寄り添うこと」です。私はいつも、IP・クリエイターの方とタイアップする以上、ファンの方々の感性に寄り添う気持ちも忘れないようにしたいなと考えています。サービス提供側の人間として企画を考えると、どうしても「こちらが伝えたいこと」「知ってほしいこと」が先行してしまいがちです。しかし、そうした一方通行のコミュニケーションでは、人の心は動かないと考えています。渡部:受け取り手不在のコミュニケーションにならないよう、気をつけることは大切ですよね。磯:そのため企画を立てる際は、常に担当サービスのターゲットの行動実態やインサイトを意識するようにしています。「もし自分がこの施策のターゲットだったらどう感じるだろう?」と想像を巡らせたり、SNSでターゲットに近い人のアカウントを見て生の声を拾ったり。時には社内でターゲットに近い人を探して、クイックにインタビューをすることもあります。今回も、担当が決まってからP丸様。の各SNSアカウントをフォローし、過去の投稿をすべて拝見しました。社内にいたP丸様。ファンのメンバーの意見も聞きながら、「ファンは普段、P丸様。のコンテンツをどのように楽しんでいるのか」を理解しようと努めました。そうした少々泥臭いやり方でしか収集できないようなインプットが、世界観を守る上での判断基準になったのだと思います。私たちがメッセージを届けたい相手を、どれだけ深く知ろうと努力できるか。特別なことではないかもしれませんが、この姿勢が最終的な施策の成否を分けるのではないでしょうか。渡部:ターゲットを置いてけぼりにしないことは、基本でありながら最も重要な姿勢ですね。私たちも改めて肝に銘じたいと思います。今後のホットペッパービューティーの取り組みも、ますます楽しみにしています。